プロパンガスはキッチンカーの営業許可を取得する上では必須ではありません。ですが、火を使わないものだけを販売するのでなければ、熱を発する調理器具は必要になってきます。火を使って、キッチンカー内で調理をする場合、電気かガスを使用することが考えられます。
この記事では、ガスの使用について説明していきます。
キッチンカーで使用するガスは、液化石油ガス、通称プロパンガスです。都市ガスではありません。容器に保存して、持ち運びそれをガス管や調理器具に繋ぐタイプのものです。
プロパンガスは強い火力で長時間調理をする場合に便利ですが、ガスは電気以上に取り扱いに注意が必要となってきます。また、プロパンガスの販売事業者は売って終わりではなく、その後も点検、消費設備の調査、周知、緊急時の対応をしなければなりません。その為、管理下に置くことが難しいキッチンカーやキャンピングカーに、プロパンガスを販売してくれるガス会社や販売店は少ない傾向にあります。
この記事では、プロパンガスの調達方法や、取扱時に気をつけなければならないことを法律とからめて説明していきます。
|プロパンガスはどこで買える?
まず、プロパンガスはどこで買えるのでしょうか?
結論から言うと、ガス会社やガスの販売店(以下:販売事業者)で購入することができます。ただし、始めにもお話したように、販売事業者は、プロパンガスを販売した後も保安業務を義務付けられているので、キッチンカーやキャンピングカーなど、販売後管理下に置くのが難しい相手に、プロパンガスを積極的に販売してくれる事業者はあまり多くはありません。
販売事業者の保安業務の義務に関しては以下の法律で規定されています。
また、「保安業務に係る技術的能力の基準等の細目を定める告示」(第2条 三 ロ)には、保安業務を行う保安機関は、緊急事態が発生した場合は、30分以内に現地に駆け付けなければならない、という「30分ルール」と呼ばれるものが存在します。
これは販売事業者にとっても、キッチンカーにとっても大変な規制です。キッチンカーは営業場所によっては販売事業者を変えないといけませんし、販売事業者は店舗から30分以上かかるところには販売をお断りしないといけなくなります。
保安業務の義務と30分ルールを嫌気して、プロパンガスの販売を辞めてしまう販売事業者もあります。つまり「プロパンガスを売ってくれる販売事業者がない」、という事態に陥ってしまうかもしれないということなのです。
そこで、昨今のキッチンカーやキャンピングカーの流行もあり、30分ルールが現実的でないということが議論を呼び、令和4年7月15日の「液化石油ガス法 保安業務告示・通達改正」によりこのルールの見直しが行われました。
2022年7月15日
経済産業省
「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」において、保安業務を行うLPガス販売事業者等に対し、保安確保の観点から、緊急時対応として、保安業務に係る一般消費者等の供給設備及び消費設備には原則として30分以内に到着し、バルブの閉止等の所要の措置を行うことができる体制を確保することを求めています(以下「30分ルール」という。)。他方で、この30分ルールによって、LPガス販売事業者が、遠方に向かい30分以内に駆けつけることが困難になることも想定されるキャンピングカー等に搭載されたLPガス容器に充塡ができないといった事態も発生しています。
本改正は、LPガス容器に充塡されたLPガスを一定量買い切る質量販売により販売されたLPガスを、キャンピングカー、キッチンカー等の屋外において移動して使用される消費設備により消費する一般消費者等の消費設備については、ガス安全に係る一定の知識や技量に関する講習を修了した上で、緊急時に必要な措置を自ら行うことについてLPガスの販売契約を締結したLPガス販売事業者の確認を受けるという代替措置を取る場合に限り、30分ルールの対象から除くものです。
なお、従来通りの30分以内で使用する場合について、新たに講習の修了等を義務付けたものではございません。
つまり、30分以内に駆け付けれない場所に移動するかもしれないキャンピングカーやキッチンカーには、販売事業者もガスの販売を拒否する事態が発生しているので、一定の条件を満たした者には30分ルールは免除しますよ、ということが書いてあります。
一定の条件とは、
- 緊急時対応に関する講習(質量販売緊急時対応講習)の課程を修了した者
- 緊急時に所要の措置を自ら行うことについて、液化石油ガス販売事業者の確認を受けた者
この場合、講習を受けるのはキッチンカーやキャンピングカーのオーナーなどのガスを買う側です。30分ルールがあってはプロパンガスの購入に支障をきたしそうな人は、講習を受けて終了証をもらい、プロパンガスを購入した販売事業者と「何かあったときには自分で対応します」と約束して下さい、そうすれば30分ルールは適用しませんよ、ということになったのです。また、約束は口約束ではなく書面(電子書面も含む)を取り交わしてください、ということが「保安機関の認定及び保安機関の保安業務規程の認可に係る運用及び解釈について」に書かれています。(以下)
「緊急時に所要の措置を自ら行うことについて、当該液化石油ガス販 売事業者の確認を受けたもの」とは、例えば、液化石油ガス販売事業者 が当該消費者と販売契約を締結しようとする際に、当該消費者に対する緊急時において消費場所に到着して行う措置を行わないことを、液化石 油ガス販売事業者が書面(電磁的方法によるものを含む。以下同じ。)に より説明をし、当該書面の控えに説明を受け理解した旨記載し、署名等 した者等をいう。
出典:「保安機関の認定及び保安機関の保安業務規程の認可に係る運用及び解釈について」(経済産業省)(tsuutatsu_seitei_shinkyuu.pdf (meti.go.jp) (2023年10月1日に利用)
以上のことが分かりやすい図で説明されていましたので、以下に引用しました。
質量販売の告示等の改正後の実際の運用対するQ&Aが、全国LPガス協会により作成されていましたので、詳しいことが知りたい方はこちらをご覧ください。
「質量販売における告示・通達改正に対するQ&Aについて」
では、この「質量販売緊急時対応講習」はどこで受けられるのでしょうか?
なんと、2023年10月1日現在、日本でこの講習を受けられるのは2社しかありません。
販売事業者によっては、この講習を受講することで、プロパンガスの販売を了解して下さるところもあります。購入を断られた場合には、講習修了をすることで販売してもらえるか聞いてみるのもいいかもしれません。
ただし、この講習を受けたからといって、全てのプロパンガス販売事業者からプロパンガスを購入できるようになるわけではありませんので、ご注意ください。
日本に2社しかないわけですが、どちらの会社の講習もWEBで受けることができます。
以下に申し込み方法を紹介します。
まず、東大阪市にあるELG(イーエルジー)株式会社からご紹介します。
申し込みはホームページからできます。
まずはこちらのURLからホームページに入ります。
左の画面が出てきます。(2023年9月時点)
←
オレンジの「質量販売緊急時対応講習 受付申し込みはこちら」のボタンをクリックします。
左の画面が出てきますので、
そのまま下にスクロールします。
講習日時が出てきました。場所や申込期間、受講料も一目で見れて分かりやすいですね。
画像は2023年10月2日のものです。変更等あるかもしれませんので、最新の情報は必ずURLから入って確認して下さい。
ちなみに、講師は社長の米島周作氏がされています。ただし、今後変更の可能性があます。
出典:ELG(イーエルジー)株式会社 (ELG(イーエルジー株式会社)-大阪のエネルギーソリューションプロバイダー (elg-inc.jp)) 2023年10月4日に利用
左の画面が出てきます。
そのまま下にスクロールします。
少し見えづらいかもしれませんが、
「2023.08.31 お知らせ
質量販売講習案内を掲載しました。」
の文字のところをクリックして下さい。
左の画面が出てきます。
下にスクロールします。
講習詳細とスケジュールがでてきました。
受講料は6,000円です。
出典:公益社団法人 千葉県LPガス協会(公益社団法人 千葉県LPガス協会 (chibalpg.or.jp))
2023年10月4日に利用
※注意
修了証は更新制ではありません。5年で失効することになっていますので、5年以内に新たに受講する必要があります。
また、講習は個人のみが対象ですので、法人の社員が講習を受けたとしても、法人名で修了証を取得することはできません。
質量販売における告示・通達改正に対するQ&Aについて(202307011536404692.pdf)
(一社)全国LPガス協会より引用 2023年9月9日
|プロパンガスの販売店を探す
質量販売緊急時対応講習はプロパンガスの販売店を探してみてから受けても遅くありあません。
まずは、あなたにプロパンガスを売ってくれる販売事業者を探しましょう。
なぜなら、新規でプロパンガスの販売をしてくださる事業者さんはとても少ないからです。
大阪LPガス協会の方のお話では、全くの新規で販売をOKしてくださる販売事業者さんは、10件に1件ぐらいではないかということでした。(統計があるわけではありません、あくまで印象です。)
ですので、まずはお付き合いのある販売事業者さんに聞いたり、お知り合いでプロパンガスを購入している人がいないか探してみて下さい。
|販売事業者を探す方法
1.自宅や会社などで契約している販売事業者に聞いてみる。
2.知り合いでプロパンガスを購入している人に紹介してもらう。
3.ネット検索で出てきたプロパンガス(PLガス)販売店に、購入できるかどうかを直接問い合わせる。
4.ELGのLPガス質量販売緊急時対応講習を受講して、ガス店照会サービスを利用する。
LPガス(プロパンガス)ボンベ充填・販売エリア/ELG全国LPガス充填ネットワーク (elg-inc.jp)
(質量販売緊急時対応講習を行っておられる、ELG(イーエルジー)株式会社が加盟店を募って運営されています。現在ガス店照会サービスは有料(¥1,320)です。ELG株式会社でガスボンベをご購入すると無料です。)
5.都道府県LPガス協会のホームページから各都道府県のページに入り、販売店一覧から探す。
(都道府県別に協会がありますが、大阪府LPガス協会では、プロパンガス(PLガス)販売事業所の紹介はしていない、とのことでした。兵庫県、京都府、奈良県、和歌山県では、それぞれのホームページにて販売店の一覧が掲載されています。(2023年9月時点))
都道府県LPガス協会 : 協会案内 | 一般社団法人全国LPガス協会 (japanlpg.or.jp)
|ガスボンベを購入するかレンタルするか
プロパンガスの販売事業者が見つけたら、ガスボンベを購入もしくはレンタルします。
ガスボンベは購入するとやや高価ですので、始めはレンタルの方が良いでしょう。
また、購入したガスボンベに充填するのを嫌がる販売事業者もあります。販売事業者で充填できるわけではなく、充填所にボンベを運んで充填してもらい、また販売店に持って帰ってきてからお客様にガスの入ったボンベをお渡しするという流れになっているため、手間も時間もかかるからです。その点、レンタルのボンベでしたら、充填したボンベを販売店にストックできますので、すぐにお客様にお渡しすることができます。
レンタルする場合はガスボンベ本体だけでなく、ガスの圧力を調整する調整器やガスを通すゴムホースも一緒にレンタルしましょう。
料金は下の表にプラス1,500円程度です。
その他、レンタル保証金が必要になる場合もあります。金額としては、1万円ぐらいが相場のようです。
保証金ですので、ボンベと引き換えに返金されます。
※レンタルを行っていない販売事業者もあります。
レンタル期間も、2~3日や1週間など販売事業者によって違います。
また、文化祭の時期である9月~11月と年末年始のお餅つきの時期は、大量にレンタルガスボンベの需要があるため、例年在庫不足になりがちです。販売事業者さんには、「レンタルの検討をしている」ことを早めに連絡しておきましょう。(できれば2~3カ月前)
購入の場合は、Amazonで見たところ
5kgガスボンベ(調整器、ホース付き)で約15,000円~20,000円
10kgガスボンベ(調整器、ホース付き)で19,000円~23,000円 ぐらいでした。
上記は容器のみの値段ですので、容器を買ったら、次は契約した販売事業者にガスを充填してもらいましょう。プロパンガスの料金は販売事業者が自由に決められますので、販売事業者によって違います。おおよその値段は以下の通りですが、先に確実な値段を確認しておきましょう。
5kg容器に充填 約2,800円(約560円/kg)
8kg容器に充填 約3,500円(約440円/kg)
10kg容器に充填 約4,400円(約440円/kg)
プロパンガスは多く充填すると、kgあたりの単価が安くなります。
※注意
プロパンガスのボンベは売って終わりの商品ではありませんので、まずはプロパンガス販売事業者に購入したガスボンベに充填してもらえるかどうかを確認してみましょう。販売事業者によっては管理上の都合により購入したガスボンベへの充填サービスは行っていないところもあります。
ちょっと補足
キッチンカーと販売事業者の責任
キッチンカーでプロパンガスを扱う場合、キッチンカーと販売事業者の責任の範囲はどうなっているのでしょうか。
まず、キッチンカー側には、ガスボンベからホース、コンロなどの燃焼器に至るまでの維持管理責任があります。
販売事業者には保安業務を行う責任があります。(他の保安機関への委託も可)
保安業務は液化石油ガス保安規則に記載されており、1号業務から7号業務があります。(保安業務を行う義務については液石法第27条)
具体的には、①供給開始時調査、②容器交換時等供給設備点検、③定期供給設備点検(4年以内に1回)、④定期消費設備調査(4年以内に1回)、⑤周知、⑥緊急時対応、⑦緊急時連絡となります。
(⑥の緊急時対応は、質量販売緊急対応講習の修了証(有効期限内)を持ち、自らが緊急時に必要な対応を行うことに同意した場合には、販売事業者の責任とはなりません。)
また、ガスを販売した際には、液化ガス法第14条により、引き渡しの方法や、消費設備の管理方法などを分かりやすく書いた書面(14条書面)を交付することが義務付けられています。
|運ぶ時に気を付けること
プロパンガスを購入出来たら、次に車で貯蔵場所もしくは営業地に運ぶ必要があります。
プロパンガスの車での移動に関しては、高圧ガス保安法第二十三条に以下のように定められています。
何やら難しいことが色々と書かれている印象ですが、まとめると次のようになります。
プロパンガスを車で移動する時には、
- ガス容器の温度が40度以下になるように保つこと。
- バルブが突出しているボンベには、固定式プロテクターかキャップを付けること。
- 容器が落ちたり、転倒したりしないようにすること。→水平な場所に置き、ロープなどで固定する。
同じ文言をピンク字にしていることに気づかれた方もおられるかもしれません。
ピンク字のある法律は、移動するボンベが10kg2本までならば、守る必要がありません。
(10kg2本までとは、20kg1本は認められませんが、5kg4本は認められるということです。)(10kg=24リットル)
10kg2本以上を移動する場合には守らないといけない法律
- 見やすいところに警戒標(「高圧ガス」と書かれたプレート)を掲げること。
- 消火設備(消火器)と災害発生防止のための応急処置に必要な資材、工具等を車内に備えおくこと。
- 移動中に災害防止のために必要な注意事項を記載した書面を、運転手は携帯し、内容を守ること。
10kg2本以上になるとコストも手間もかかりますので、キッチンカーで使用するのなら、これ以下にするのがお勧めです。
※ただし、これは移動する時の目安です。キッチンカー内は室内と考えられていますので、使用する時には8kg以下のガスボンベにする必要があります。「キッチンカーで10kgボンベを使用する」とガス店に言うとほぼ100%断られます。また、10kgボンベでもカップリング付きであれば法律的には使用可能ですが、以下の法律に規定する「カップリング付容器用弁を有する10kgボンベ」を充填してくれる販売事業者の数は、各都道府県に一軒あるかないかという状況になっています。
以上のことを考慮すると、キッチンカーで使用するガスボンベは8kg2本以下にするのが現実的です。
|使用するときに気をつけること
プロパンガスを使用(消費)する時に守らなければならない法律は以下の通りです。
以上は、プロパンガスを使用する時の、容器(ガスボンベ)、調整器(ガスボンベ内の圧力を調整する機器)、燃焼器(ガスコンロ等)の基準について定められた法律です。
容器(ガスボンベ)の注意点
- 容器は湿気、水滴による腐食を妨げる容器にすること。
- 容器を常に四十度以下に保つこと。
- 容器が落ちたり、転倒したりしないようにすること。
- 8kg以下もしくはカップリング付きの10kg以下のガスボンベを使用すること。
調整器(ガスボンベ内の圧力を調整する機器)の注意点
- 腐食、割れの無いものを使用し、ねじのゆるみ等がないようにすること。
- 適切な圧力にして使うこと。
- ガスコンロ等の燃焼器に合った調整器を使用すること。
燃焼器(ガスコンロ等)の注意点
- 使用するプロパンガスに合った燃焼器を使用すること。
また、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の44条2号ロには内容積が二十リットル以下の容器に係る消費設備、内容積が二十リットルを超え二十五リットル以下の容器
|保管しておく時に気を付けること
プロパンガスを保管する時には、風通しの良い場所に容器(ガスボンベ)を置きましょう、ということです。
キッチンカーで気をつけたいのは、気温の高い夏に、車内にガスボンベを置いたままにしないということです。面倒かもしれませんが、必ず、キッチンカーからボンベを降ろして、倉庫や日陰の風通しの良いところに出しておいて下さい。
気温が40度以上になると、ボンベ内の圧力の関係で、仕様上微弱なガス漏れをします。そのガス漏れが長時間にわたり持続し、車内にガスが充満すると、どれほど危険な状態になるかはおわかり頂けるかと思います。
|まとめ
最後までお読み頂きありがとうございます。
プロパンガスは購入する時、運ぶ時、使用する時、保管しておく時それぞれに気を付けるべき法律があります。今は、プロパンガスの容器も安全ですので、適切に使用していれば滅多なことはありません。
ガスボンベは通常、ヒューズコックやカップリング容器などの安全装置を取り付けて使用します。
ヒューズコックもカップリング容器も、ガス器具の接続部分が外れた場合や、ガス漏れが発生した場合に、自動的にガスを遮断してくれます。
ただ、万が一ガス漏れが起きて、異臭を感じたら、必ず契約をしているガス販売事業者に連絡をいれましょう。