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「食中毒かもしれない」と言われたら

食中毒 行政書士長尾真由子事務所

キッチンカーを開業するときには、食品衛生責任者の講習を受け、HACCPの指導を受け、管理計画を作成しなければなりません。その後も、HACCPのチェックリストに毎日チェックをつけ、毎月見直しを行っていくのが理想です。このことにより、かなりの確率で食中毒を防ぐことができるでしょう。ただ、「そこまで完全にやれていない」「ほかのキッチンカーもやっていないし、やらなくてもいいでしょ」というキッチンカーオーナーさんも多いかと思います。また、完璧にやっていたつもりでも、雇ったアルバイトの方が熱を出していたにもかかわらず、黙って仕事をしていた場合など、不測の事態にみまわれるかもしれません。

 

それ以外にも、結果的にキッチンカーから食中毒を出したわけではなく、お客様が他の原因からくる腹痛を、キッチンカーで出されたものが原因で腹痛を起こした、と言ってこられることも考えられます。

 

そんな時、キッチンカー側はどのようにお客様に対応し、対処してゆけば良いのでしょう。

 

この記事では、食中毒が疑われる場合のお客様にどう対応すればよいのか、保健所や医療機関等の公共機関に、どのタイミングで何を連絡すればよいのか、提出しなければいけない書類や物は何か、食中毒と断定された場合のお客様への対応や補償等をお伝えしていきます。

|お客様への対応

お客様が食中毒を訴えてこられたら

 

食中毒が疑われる場合、お客様から直接訴えてこられる場合があります。キッチンカーですので、お客様のこのような訴えは営業中になされることが多いでしょう。営業中に「食中毒かもしれない」などと言われると、他のお客様の手前もあり、本当に慌ててしまいますよね。ただ、事前に対処法を知っておくことで回避できるトラブルもあります。

 

まずは、営業を中止してでも冷静にお客様のお話を聞きましょう。お客様はご立腹されていることも考えられます。お客様のお話をさえぎらず、まずは聞き役に徹しましょう。お客様の言葉に過剰に反応する、問いただす、否定するなどはNGです。また、正確な事実関係を把握できるよう、必ずメモを取って下さい。あとで言った言わないのトラブルを避けることもできますし、メモをとることで、お客様に「聞いてもらえている」という安心感と、「下手なことは言えない」という緊張感を持っていただけるでしょう。

 

その際に、お客様から聞いておくことは以下になります。

 

  1. どのような症状があるのか
  2. その症状はいつごろからあるのか
  3. 何月何日何時に食中毒を疑われる食べ物を食べたのか
  4. その時に食べたメニュー
  5. どのメニュー、食材が原因だと思われているのか
  6. なぜそう思われるのか
  7. 複数人で購入していただいた場合、症状が出ている人が他にいないか
  8. 病院に行ったか
  9. 保健所に連絡したか
  10. お客様の氏名と連絡先

 

 

特に重要な質問は赤字にしました。急にお客様からこのようような訴えがあった場合、うまく対応できないかもしれません。この4つだけは最低でも聞いておくようにしましょう。

 

8の質問に対して、お客様の答えが「NO」だった場合は、すぐに病院などの医療機関を受診するようにうながしましょう。腹痛や下痢などの症状の場合、必ずしも食中毒が原因とは限りません。また、食中毒だったとしても、あなたのキッチンカーが提供した食事よるものではないかもしれません。

 

受診をうながす際には、言葉を選びながら、あなたのキッチンカーが提供した料理で食中毒が起きたかどうかの判断は保健所や病院がする旨を伝えます。もしあなたのキッチンカーで食中毒が発生したとの判断がなされた場合は、医療機関での受診費用や治療代、医療機関までの交通費はあなたのお店が負担することを伝えてください。また、これらの領収書も必ず保管しておいてもらいましょう。

|保健所への連絡

お客様とのお話が終わったら、すぐに管轄の保健所に連絡をして、「食中毒が疑われるお客様からお話があった」旨を報告して下さい。また、食中毒の原因と疑われる食材や調理済みの料理が残っている場合は、保健所の検査で提出できるよう保管しておきましょう。

 

 

お客様が医療機関を受診した後、食中毒かどうかが判明するまでには2~3日かかります。その間に次のことを確認しておきましょう。

 

  • 他のお客様から同様のお話がなかったか
  • 仕入れ先の業者に同じような連絡が入っていないか
  • 自分の体調や、雇っているスタッフがいる場合は、そのスタッフの体調はどうか

 

ここまでは、お客様が直接言ってこられた場合です。

 

お客様が直接保健所に連絡を入れている場合もあります。その場合は保健所から連絡が入ります。

|保健所の立ち入り検査

お客様の症状が食中毒だと診断されると、キッチンカーへの立ち入り検査が行われます。

保健所は立ち入り検査時に、「拭き取り調査を中心とした施設調査」を行います。拭き取り調査とは、実際にキッチンカーで使っている設備や食材などの拭き取りをして、検体を採取する調査のことです。

 

キッチンカーですので、固定店舗と違い、保健所に来るよう指示がある場合もあります。固定店舗と同じく、保健所の検査員の方が来られることもあります。こちらはケースバイケースだということでした。

 

事前通知があったら

 

ケースにもよりますが、保健所からは立ち入り検査の事前通知が入る場合もあります。

検査当日になって慌てないよう、下記の提出物を用意しておきましょう。

 

  • 食材の仕入れ先一覧、仕入伝票や仕入れ履歴の記載のあるもの
  • 具体的な調理法、調理の手順がわかるマニュアル
  • 衛生管理マニュアル(衛生管理計画など)
  • 衛生管理チェック表

 

立ち入り検査当日

 

立ち入り検査当日には、これまでに収集した以下のような情報を聞き取りされます。また、用意した提出物も渡します。

  • 症状を訴えたお客様がキッチンカーを利用した日時
  • 衛生管理マニュアルの有無
  • その日の利用者数
  • 他のお客様から同じような訴えはないか
  • 当日調理を担当した人の健康状態
  • 調理をした人や家族が生肉や生卵、生カキをよく食べるかどうか

 

衛生管理マニュアルの有無を赤字にしました。2020年6月より食品衛生法の改正により、キッチンカーであっても「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実行しなければならなくなりました。その中で、衛生管理計画の作成と、管理チェック表の作成が義務となっています。

 

公益社団法人日本食品衛生協会から手引書が出ていますので、それに沿って作成するのですが、面倒でやっておられないキッチンカーも多いのではないでしょうか。作成していないと、このような食中毒を疑われる場面で、益々保健所の疑心を強めてしまいます。また、何かの拍子にこのことがお客様の耳に入れば、「やっぱりあそこの食べ物が原因にちがいない」と判断されてしまうでしょう。

 

食中毒を出したとしても、「することはしていた」ということを、保健所やお客様、そして自分自身にも言えることは、大きな力となり、あなたを守ってくれることでしょう。そのためにも、衛生管理の計画とチェックは面倒でも手を付けておきましょう。

 

HACCP(ハサップ)の取り入れ方については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

また、ケースにもよりますが、当日求められる提出物に検便があります。その日に提出できるとは限りませんので、検査当日は容器のみを渡され、できるだけ早く提出するように言われます。

 

 

同時進行で、お客様にも保健所からのヒアリングが行われます。同時といっても、同じ場所で行われるわけではありません。お客様には次のような質問がされます。

 

  • 症状が現れたのはいつ頃か
  • どのような症状が具体的に表れたのか
  • 飲食した日時

|食中毒と判断されたら

最終的に食中毒の判断を行うのは、管轄の保健所です。

 

保健所からの指導及び処分

 

「キッチンカー側の過失で食中毒が発生した」という検査結果が出ると、数日から1か月以内に行政指導、行政処分が下されます。

 

営業停止命令を受けると、最低でも3日間、長ければ7日間程度、キッチンカーを営業できなくなります。また、自治体によっては、営業禁止命令を出すところもあります。これは、日数を決めずに営業を停止する処分で、キッチンカー側が必要な措置をとるまで解除されません。

 

ただし、「このキッチンカーから食中毒が出た可能性が高い」と思われる場合であっても、はっきりとは断定できないときには、保健所の指導で終わる場合もあります。

 

その他のペナルティーとして、行政のWEBサイトに「食中毒を起こした店舗」として掲載されます。掲載の様式や、期間は自治体によって異なります(ちなみに豊中市では1週間です)。

 

 

お客様への補償

 

お客様には、お約束していた、医療機関での診察代、治療費、交通費に加え、休業損害金、見舞金などを支払うことになります。だいたい1人当たり、3~5万円と考えておいて下さい。

 

休業損害金とは、食中毒によりお客様が仕事を休んだ場合の補償です。休業損害金を要求されたら、仕事を休んだことを確認できる証明書を勤務先に作成してもらうよう、お客様に伝えます。

 

同時に、お客様が受診された医療機関の医師に手紙を送り、お客様の症状の程度や欠勤の必要性をたずねて下さい。個人情報に関わることですので、お客さまの同意書が必要になります。欠勤されていても、休む必要性がない程度の症状だと医師が判断している場合は、休業損害金を支払う必要はありません。

 

欠勤の事実と仕事を休む必要性のある程度の症状だということを確認した後は、給与額を日割り計算し、欠勤した日数分の休業損害金を支払います。

 

お一人でも、1日の売り上げ以上の金額が飛んで行ってしまいます。これが何人もの補償を請求されたら、キッチンカーを廃業する事態にもなりかねません。

 

必ず、PL保険(生産物賠償責任保険)には加入しておきましょう。PL保険に入っていれば、上記の補償は保険から支払われます。

 

ただし、営業停止による売り上げの減少、販売済みのお弁当をリコールした時の損失は、「特約」としてオプションをつけないと補償されないかもしれません。保険契約の時に確認しておきましょう。

 

|食中毒を起こさないために

食中毒の発生は、キッチンカーにとってマイナスにしかなりません。

 

 

小規模店舗であるキッチンカーといえども、衛生管理はしっかりと行いましょう。特にスタッフを雇う場合には、衛生管理マニュアルを渡してしっかりと教育し、営業前日に生ものなどを食べないよう指導してください。また、ご自分やスタッフの体調も良く観察して、無理をしたり、させたりしないようにしましょう。

衛生管理を行うには、「HACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理」を行うのが一番です。面倒かもしれませんが、衛生管理計画を作成し、衛生管理チェック表に毎日記入をしていきましょう。そうすることで、キッチンカー内の衛生面を考えるきっかけとなり、清掃にも身が入ります。結果、キッチンカー内はいつも清潔に保たれ、お客様が安心して購入できる見た目となるでしょう。

豊中市保健所の健康危機対策課のホームページには、「キッチンカーで食品を調理・提供する方へ」というPDFをダウンロードできるようになっています。

こちらのPDFがよくまとまっているなと思いましたので、許可を得てそのまま掲載しておきます。参考にして下さい。

|まとめ

食中毒を起こすと、キッチンカーであっても、固定店舗と同じように、立ち入り検査が入り、食品衛生法に基づいて行政指導や処分を受けます。

 

日ごろから衛生管理をしっかり行っておくのは当然として、万が一お客様から「食中毒かもしれない」と訴えがあったときには、お客様の話に耳を傾け、確認しなければならないことはしっかりヒアリングできる体制を整えておきましょう。対処法を何か紙に書いたり、スマホに保存しておくのも良いですね。

 

また、保健所から立ち入り検査があった時には、保健所に協力的な姿勢を見せましょう。提出するよう求められたものは提出し、聞かれたことには答えましょう。

 

そして、最悪のケースを考えて、保険には加入しておきましょう。