キッチンカーを開業するためには車が必要ですが、どんな車でも良いわけではありまん。まずは、保健所に事前相談に行き、営業をしても良い車かどうかを判断してもらいましょう。事前相談の際には、何を販売するのかを決め、キッチン部分の図面を作成して持参すると話がスムーズに進みます。図面は手書きでかまいません。
また、昨今では8ナンバーにしないと出店を断られるケースも増えてきたため、開業に合わせて構造変更検査を受ける車も多いと思います。
営業許可申請であれ、構造変更検査であれ、事前相談の段階からキッチン部分の図面を用意しておくと、保健所や自動車技術総合機構の職員の方とのお話も進めやすくなります。
|クレープ屋さんキッチンカーの図面
こちらは私が想像で作成したクレープ屋さんのキッチンカーの図面です。軽トラックをⅢ型(普通型)のキッチンカーに改造することを想定しました。(Ⅲ型って?と思われた方は下記の記事をご覧ください。)
キッチンカーの図面を作成する上で、許可要件においてポイントとなる部分があります。この記事では要件の部分を重点的に解説していきますので、ご自身の図面作成の参考にして下さい。
ただ、以下は大阪府の基準を採用しています。他の都道府県や大阪府内の各自治体では異なる部分もありますので、必ず営業先の保健所に確認しましょう。
|キッチンカー図面のポイント
保健所の営業許可の要件
まずは、保健所の営業許可を取得するためのポイントを見ていきます。
- 運転席と調理場は明確に区切ること。
- 調理場は十分な作業スペースを設けること(機材等で作業スペースが確保できない等は不可)。
- 床、内側の壁、天井は、清掃等が容易にできる材質のものを使い、清掃等が容易にできるような構造にすること。
まずは運転席と調理場をきちんと区切らなければなりません。バンタイプなどの運転席と調理場に壁がない車の場合、新たに壁を作成する必要があります。上記は軽トラックですので、もともと壁がある車を使用しています。
2についてですが、保健所の営業許可を取得するにあたっては、特に面積に決まりはありません。ただし、構造変更検査を受けるのであれば、「設備部分を2分の1以上にしなければならない」等の決まりがありますので注意が必要です。こちらは後で解説します。
3の清掃等とは、清掃、洗浄及び消毒のことです。要はできるだけ簡単に清潔さを保てるようなキッチンカーにしましょうね、ということです。
食品衛生法施行規則 別表第19には、全ての営業許可業種に共通する施設基準が定められています。清掃の件は3号のハに書かれており、二には床面の不浸透性がもとめられているのですが、キッチンカーの床材については、5号のハで不浸透性は求めないとされています。
ただし、自治体によってはそこまで求めて来る場合もあるかもしれません。営業許可の事前相談で必ず確認しておきましょう。
4.給水タンク、排水タンクの設置
Ⅲ型の給水タンクと排水タンクは、それぞれ200ℓ以上の容量が必要です。200ℓを2つですので400ℓものタンクを設置しなければなりません。今回はシンクの下にタンクを設置し、電動汲み上げ式を想定しています。天井にタンクを設置して落下式にしているキッチンカーもあります。ただ、200ℓサイズになると、現実的ではありませんので採用しませんでした。
タンクは分けても構いません。例えば100ℓを4つ用意するでも良いですし、50ℓ8つでも良いということでした。また、分けて購入した場合、使わないタンクはシンク下以外の車内に置いておいてもかまいません。
5.手洗いシンク、洗浄用シンク
Ⅲ型では、手洗い用のシンクと、洗浄用のシンクを別々に設ける必要があります。
また、手洗い用シンクの水栓は、レバー式や踏込式等の手が再汚染されないものでなければいけません。ひねるタイプの水栓だと、汚れた手で触った蛇口を、手洗い後に再度触らなければなりませんので非衛生的だということです。
レバー式も同じでは?と思われたかもしれませんが、レバー式は水を出すときには手を使い、水を止めるときにはひじなどを使えるので採用されています。
洗浄用とは食品や調理器具を洗うためのシンクです。こちらの水栓には、レバー式や踏込み式等の指定はありません。
シンクの数は、大阪府では最低2つですが、他の都道府県でも営業を考えておられる方は3つ用意しておいた方がよいでしょう。もうすでに他の都道府県での営業が決まっている場合は、そちらの営業先の保健所が最低何槽のシンクを要件としているのかも確認して下さい。
こちらのキッチンカーでは、シンクを使用しないときには作業台として使えるよう、蓋を設けました。蓋はなくてもかまいません。
6.冷蔵設備の設置
冷蔵庫もしくはクーラーボックスを設置しなければいけません。こちらのクレープ屋さんでは、クレープ焼き機の斜め下に冷蔵庫を設置しました。冷蔵庫の温度も管理しないといけませんので、温度計が外付けで見やすい業務用の冷蔵庫にしてみました。
左のように、冷蔵庫の上を作業台として使えるタイプを、コールドテーブルと言います。直接作業台として使うのではなく、木製やステンレス製の作業台の下に収納する形で使用した方が良いでしょう。
幅600~630mm/奥行450mm|幅600~2100mm/奥行450mm|冷蔵コールドテーブル | 業務用厨房機器/調理道具通販サイト「厨房ズfeat.ユー厨房」 (chubo-z.com) 引用
7.蓋付きゴミ箱の設置
ゴミ箱の設置も義務付けられています。また、ゴミ箱は蓋付きでなければいけません。ゴミ箱は、蓋つきのものであれば特に大きさに指定はありませんが、業務用になりますので、60ℓサイズにしました。
こちらは、固定はしていませんので、設備の面積には含めません。
8.換気設備の設置
大阪府の自動車営業(飲食店営業)新規申請の設備要件には、
「換気設備は必要」となっていますが、換気扇の設置は義務付けられていません。窓でも換気設備とみなされます。大阪府の食品安全推進課に確認したところ、商品の受け渡し口を換気設備と考えてもかまわないということでした。
また、他に換気設備として窓を設ける場合は、網戸を設置しておくよう指導をうけるかと思います。
とはいえ、クレープ調理は火を使いますし、熱気を逃すためにも換気扇はつけた方が良いでしょう。また、構造変更検査の加工車の要件では、換気設備が必要と書かれていますので設置しておきます。
9.保管設備の設置
食料品や食器などを保管しておく密閉ケースや棚なども、必ず備えておかなければなりません。また、ケースや棚もなんでも良いわけではなく、棚は扉や引き出しを設け、しっかり閉まる作りにしておく必要があります。ネズミや虫の侵入防止対策ですね。隙間があると保健所の申請は通りません。
また、自動車ですので、移動の事も考え、揺れても簡単に開いたり、飛び出したりしない棚や引き出しにしておいた方が良いでしょう。
特にDIYを考えておられる場合は注意が必要です。作業台などは手作りで、棚は市販のものを活用するのも一つの方法ですね。
|構造変更(加工車)の要件
次に構造変更検査を受けて、加工車の8ナンバーにするためのポイントを見ていきます。こちらは、構造変更検査を受けない、という方には関係ありませんが、「いずれは8ナンバーを考えている」という方は読んでおいていただくと、後々余計な費用や手間が省けます。構造変更検査にも対応できるキッチンカーを先に作っておけるからです。
1.加工作業用に必要な加工台、流し台、加工するための用具を収納する棚等を屋内に有し、かつ、当該設備は屋内において使用することができるものであること。
こちらは、保健所の営業許可の要件と似ていますね。保健所の要件の方が厳しいですので、保健所の要件に沿った車の改造計画を立てていれば問題が無いと思います。
2.加工作業を行う場所には、照明及び換気装置を有すること。
保健所の許可要件では照明には触れられていませんでしたが、構造変更検査を受ける場合には照明が必要になります。
昼間の営業が多くて、照明はほとんど使わないという場合でも、加工車として構造変更検査を受けるのであれば、天井を加工して電気配線を引く必要があります。
独立行政法人自動車技術総合機構 近畿検査部に問い合わせたところ、残念ながら、持ち運びタイプやマグネットタイプは認められないということでした。
次に、換気についてですが、こちらは保健所の要件と違い、換気装置と書かれていますので、換気扇が必要になってきます。
3.1の設備の付近には1辺が30㎝の正方形を含む0.5㎡以上の加工作業用の床面積を有すること。
人が作業をするスペースが必要ということですね。0.5㎡とは、分かりやすいサイズ感としては1m×50㎝の大きさですので、それほど大きなスペースではありません。その中で30㎝×30㎝の正方形が入ればよいわけです。つまり、幅が30㎝以下の細長いスペースで0.5㎡あっても認めませんよ、ということです。
分かりやすいよう、今回の図面にもこの30㎝×30㎝の正方形を点線で入れてみました。
詳しい計算式は以下になります。表の緑色の部分が作業スペースです。
つまり、最終的に床面積から設備面積を引くと、およそ1㎡の作業スペースがとれたことになります。図面から分かると思いますが、1辺が30㎝の正方形も含んでいます。
ゴミ箱は固定していませんので、設備ではないため、作業スペースの方の面積に入っています。
これで3の条件はクリアをしました。
4.特殊な設備の占有する面積は、運転者席を覗く客室の床面積及び物品積載設備の床面積並びに特殊な設備の占有する面積の2分の1を超えること。
上記の表の黄色の部分を見てください。これが今回のキッチンカーの設備面積の割合です。およそ60パーセントが設備面積となりますので、こちらも2分の1以上(50パーセント以上)という条件をクリアしています。
|まとめ
以上、大阪府の保健所の営業許可要件と加工車への構造変更要件をどのように図面に落とし込むか、を具体的に書いてきました。あくまで大阪府のことですので、他の都道府県の要件は確認して下さい。
キッチンカーは、基本的にはオーダーメイドですので、それぞれに違った図面ができあがることでしょう。ご自分の夢のキッチンカーです。自分の自由に作りたい気持ちは分かりますが、営業許可を取れないキッチンカーを作成してしまうと開業すらできなくなってしまいます。
キッチンカー開業の前には、どういった条件をクリアしないといけないのかを勉強し、知る必要があるのです。
実際に、何も調べずに、いきなり保健所にキッチンカーで乗り付けて、「許可を下さい」という強者もいらっしゃるようですが、これでは許可が下りる可能性はとても低いです。
多額のお金と、多くの時間を費やしたキッチンカーを開業できないとなると、泣くに泣けません。そうならないためにも必ず、キッチンカーの作成前、車の購入前に保健所に行って相談をして下さい。
その際には、図面を持参されることをお勧めします。
図面は立派なものでなくてかまいません。メモのようなものでも良いそうです。
もし、許可要件に合った図面になっているかどうか心配だ、保健所の心証を良くするためにもきちんとした図面を持って行きたい、という方は、どうぞ行政書士長尾真由子事務所にご相談ください。平面図作成だけでしたら3000円~承ります。
また、初回30分の相談は無料ですので、お気軽にお問い合せ下さい。