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キッチンカーは8ナンバーにすべき?

構造変更検査 行政書士長尾真由子事務所

キッチンカーのあの車は、どこのメーカーが製造しているのでしょうか?

そうです、あの車はどこのメーカーも製造していません。キッチンカーはメーカーが製造販売している車、もしくは製造販売して中古車として市場に出ている車を改造して作られています。つまりどのキッチンカーも改造車になるわけです。

 

改造車ですので、そのまま公道を走らせるわけにはいきません。

道路運送車両法の第67条には、以下のように書かれています。

 

(自動車検査証記録事項の変更及び構造変更検査)

第六十七条 自動車の使用者は、自動車検査証記録事項について変更があったときは、その事由があった日から十五日以内に、当該変更について、国土交通大臣が行う自動車検査証の変更記録をうけなければならない。ただし、その効力を失っている自動車検査証については、これに変更記録をうけるべき時期は、当該自動車を使用しようとする時とすることができる。

 

つまり、車を改造して車検証と違う車になった場合は、改造した日から15日以内に変更の検査を受けて、車検証の内容も変更しなければいけませんよ、ということです。この検査のことを構造変更検査といいます。

 

自動車はその種類によって、長さ、幅、高さ、排気量などが決まっています。

特に軽自動車(軽トラック含む)は税金が安かったり、車庫証明が要らないなどのメリットがありますので、かなり厳格に決められています。

 

長さは3.4m以下、幅は1.48m以下、高さは2.0m以下、排気量660以下、最大積載量350㎏以下(道路運送車両法 第三条、自動車の種類ー国土交通省001324210.pdf (mlit.go.jp))でなければ、軽自動車とは認められません。つまり、これ以上の大きさの車に改造するには構造変更検査を受けて車検証の記載を変更しなければならないのです。

 

さて、ではキッチンカーにするにあたり、何が問題となってくるのでしょうか?

よくあるキッチンカーのタイプとして、軽トラックの荷台に箱型のキッチンを固定して制作しているものがあります。

この場合最も問題になりやすいのが、高さの制限です。

 

軽トラックの荷台の高さ(荷台床面地上高)はほとんどが650~660mmになっています。となると、人が荷台のキッチンで立って作業をしようとすると、最低でも箱の高さは1.8m必要になるので、軽トラックの高さは2.5mぐらいになってきます。

軽トラックの高さ制限は2.0mですので、認められる高さを超えてしまうのです。

 

また、「キッチンの箱の部分を荷物として考えれば2.5mまでは合法です」、という説明を業者の方から受けたという方もいらっしゃるようですが、国土交通省の「特種用途自動車(8ナンバー)の構造要件|自動車の用途等の区分について(依命通達)」の6、注7には以下のように書かれています。

 

 

注7  主たる使用目的遂行に必要な構造及び装置を有し
   車枠又は車体に、特種な目的遂行のための設備(「自動車部品を装着した場合の構造等変更検査時等における取扱いについて(依命通達)」(平成7年11月16日付け自技第234号、自整第262号)の指定部品は、「特種な目的遂行のための設備」には該当しないものとする。)がボルト、リベット、接着剤又は溶接により確実に固定されているものをいう。
 なお、蝶ねじ類、テープ類、ロープ類、針金類、その他これらに類するもので取り付けられた設備は、確実に固定されているものに該当しないものとする。  

 

 つまり、「荷台に載せた物の取付方法によっては荷物とみなされないので、構造変更検査を受けて下さい」ということです。

確かに道路交通法では、軽トラックは荷物を積んだ状態での高さ制限は2.5mです(道路交通法第二十二条 三のハ)。ですが、上記にあるとおり、取り付け方法により荷物とみなされない場合があります。

 

荷物の取り付け方法は次の3つに分類されます。 

  1. 簡易取付ー工具を使用せずに取り付ける方法(ひも、蝶ねじなど)
  2. 固定的取付ー工具を使用して取り付ける方法(ボルト、ナットなど)
  3. 恒久的取付ーリベット、溶接による取付

このうち、2,3の方法で取り付けられた設備(この場合キッチンの箱のこと)は、荷物とはみなされませんので、構造変更検査を受けて車検証を書き換える必要があります。

 

 1の方法でしたら、地面から2.5mまでなら荷物とみなされます。ですが、ひも、針金、蝶ねじで留めただけのキッチンカーなんてありえませんよね。

 

ただ、実際には4ナンバーのままのキッチンカーを見たことがある、という方も多いでしょう。そういうキッチンカーは2の方法でキッチンを取り付けてはいるのですが、車検の時のみ荷台からキッチンの箱を取り外して検査を受け、車検が終わると荷台にまたキッチンを取り付けて営業をしています。

 

「それって違法では?」と思われる方も多しでしょう。厳密にいうと違法です。なぜなら車検証とキッチンカーの実態が合っていない状態で公道を走っているからです。(公道を走らなければ問題ありません。どこかの敷地内で車の形をしたお店を営業するだけでしたら合法です。)

 

また、1ナンバーのトラックは大きさこそ変わりませんが、これもキッチンを2や3の方法で留めている場合は、構造変更検査を受けて車検証を書き換える必要があります。8ナンバーになっていないキッチンカーは、これも車検の時のみ荷台の設備を全部取り出して、車検を受けているのです。

 

ここまで読んでいただければ、8ナンバーにしないと車検の時に面倒だし、なんだかもやもやした気持ちでキッチンカーを営業しないといけないし、さっさと8ナンバーにした方が良いのでは?と思われたかもしれません。結論をいうとそのとおりですが、やはり8ナンバーにしないことにも理由があります。

8ナンバーのメリット・デメリット

結論から言うと、4ナンバー、1ナンバーの車を使ってキッチンカーを営業するのであれば、構造変更検査を受けて8ナンバーを取得した方が良いです。これからその理由を、8ナンバーのメリット、デメリットに分けてお伝えします。

 

|メリット

  1. 安心してキッチンカーを営業できる
  2. どこでも車検が受けられる
  3. 保険が下りる
  4. 信用される

 

1.安心してキッチンカーを営業できる

 

8ナンバーを取得すると2つの安心が得られます。

 

一つは、車体の安心です。構造変更検査では車体の安全性テストがありあますので、それに合格したという安心感が得られます。傾斜試験もあり、峠道などで車体が傾いた状態で走っているとき、検査に合格しているから大丈夫、と思えるのは小さいようで大きな安心につながります。

 

もう一つは、きちんとした手続きを踏んでいるので、堂々としていられることです。最近では一般の方でも、4ナンバーや1ナンバーのキッチンカーを違法車両と考える方が出てきました。ましてや地域によっては警察が取り締まっている場合もあります。いつ、誰に違法車両だという指摘を受けるかとびくびくしながら営業するのは気持ちの良いものではありませんし、本業に支障が出てくることも考えられます。

 

2.どこでも車検が受けられる

 

本来車検は陸運局の支局、自動車検査登録事務所、カーディーラー、車検専門店、カー用品店、中古自動車販売店、ガソリンスタンドなど様々な場所で受けることができます。ですが、上記の軽トラックのキッチンカーの場合、キッチンの箱の部分を取り外して車検を受けなければなりませんでしたよね。「取り外す」と言葉で言うのは簡単ですが、実際は大人数人を要するかなりの大作業です。いったいこの作業をどこがやってくれるのでしょうか?恐らく、最初に改造を請け負った業者の方に、「車検は必ずうちに持ってきてください」と言われているのではないでしょうか。つまり、他では車検が通らないし、通すための箱外しの作業もしてもらえないので、うちに持ってくるしかありませんよ、と言われているのです。そうなると、車検代は業者の言い値になりますし、もし業者が倒産してしまった場合、あなたのキッチンカーは車検を通すことができなくなってしまいます。

 

3.保険が下りる

 

保険も8ナンバーの保険に入ることになります。4ナンバーや1ナンバーの保険に入った場合、もし事故を起こしたとき、保険会社が違法車両だと認定してしまうと、当然ながら保険は下りなくなってしまいます。これも保険会社の担当者によって判断が分かれるところではありますが、事故があってから、保険が下りるか一か八かかけてみるというのでは、何のためのに保険に加入したのかわからなくなってしまいます。

 

4.信用される

 

商売は信用が第一です。違法かもしれないキッチンカーよりも、見た目にも合法のキッチンカーが信用されるのは誰の目にも明らかでしょう。

最近はイベントなどでも、8ナンバーでないキッチンカーは断られるケースも増えてきました。キッチンカーの成功は出店場所にかかっていると言っても過言ではありません。イベントによっては1日で何十万も売り上げがあがると聞きます。そのようなチャンスを8ナンバーにしていないことで失っても良いのかどうか、です。 

また、昨今では、今までは大企業にだけ求められていたコンプライアンス遵守が、中小企業にも求められるようになってきました。

キッチンカーを営業している方は個人事業主なので関係がない、と思われているかもしれませんが、イベントなどを主催している企業が中小企業であったり、はたまた大企業だった場合、取引先であるキッチンカーにコンプライアンスの遵守が求められることは当然と言えるでしょう。

 

 

|デメリット

 

  1. 維持費がかかる
  2. 8ナンバーで加入できる保険会社が限られる
  3. 任意保険料が高くなる
  4. 構造変更検査に費用と時間がかかり面倒くさい
  5. 設備を簡単に変更できない

 

1.維持費がかかる

 

4ナンバー車や、1ナンバー車を8ナンバーに変更すると自賠責保険料、任意保険料、税金、車検代などの維持費が高くなってしまいます。やはり、8ナンバーにしない理由は、一番にお金のことになるのではないでしょうか。

 

こちらの移動販売研究所さんのサイトで、4ナンバー→8ナンバー、1ナンバー→8ナンバーにするとどれだけ維持費が高くなってしまうのか、が詳細に書かれていますので参考にしてみて下さい。

結論から言うと、4ナンバー→8ナンバーで約6万円、1ナンバー→8ナンバーで約5万円の維持費増になるようです(個々のケースにより変動あり)。

 

 【8ナンバー】キッチンカーの製作マニュアル|税金・保険・車検の方法 – 移動販売研究所 (inuiyuko.com)

 

 

2.8ナンバーで加入できる保険会社が限られる

 

1990年代には節税や車検期間延長(1年→2年)のために、違法に8ナンバーに変更する人があとを絶ちませんでした。これを重く見た政府により、構造要件は厳格化され、保険会社にも8ナンバー車への保険の要件を厳しくするよう指導がなされました。そこで、それならばもう8ナンバーの保険自体をやめてしまおう、という保険会社が多くでてきてしまったわけです。

 

移動販売研究所さんでは、個人で加入できる8ナンバーの保険としては、下記の株式シェアティブ一択だと書かれています。

 

移動販売車(キッチンカー)の保険料モデルケース|株式会社シェアティブ (sharetive.com)

 

下記のサイトではAIU保険、東京海上、損保ジャパン等の名前も上がっています。

 

自動車保険 8ナンバー可能な会社と見積もり金額 | 自動車保険の比較ランキング・評判ランキングの決定版! (garigarikun.jp)

 

 

3.任意保険料が高くなる

 

8ナンバーの保険自体を扱っている会社が少ないうえに、保険料も高額です。株式会社シェアティブのサイトを見ると、車両保険なしでも年間¥80,360です。ちなみに4ナンバーの保険料は¥31,060です。倍以上の差ですね。確かに構造変更検査を回避したくもなる金額です。

 

 

4.構造変更検査に費用と時間がかかり面倒くさい

 

構造変更検査そのもににかかる費用は、技術管理手数料が¥400と検査手数料が¥2,000~¥2,100です。「なんだ、そんなにかからないじゃない」と思われたかもしれませんが、これは自分で書類も用意して車を持ち込んだ場合です。また、検査に通過するためには構造要件に合致した車にする必要があり、その改造費用が別にかかってきます。

 

改造して、書類を用意して、検査を受けに行って、となると時間もかかります。

改造して、検査に出し、8ナンバーになった状態で納車をしてくれる業者さんを探すのが最も時間のかからない方法です。が、やはりその分の手数料は改造費用に上乗せされてくるでしょう。

 

また、業者さんも構造変更に手間がかかることをご存じなので、8ナンバーにすることに消極的なところもあります。改造をお願いするときには、8ナンバーにして納車してもらえるのかどうかもしっかり確認したいところです。

 

 

5.設備を簡単に変更できない

 

キッチンカーを8ナンバーにするには、加工車として登録をします。そして、この加工車はキッチンカーであればなんでもいいわけではなく、構造要件といって「これこれこういう車にして下さいね」という条件がつけられています。その条件に合った車を作り、検査を通して、やっと新しい車検証を発行してもらえるのです。

ですので、登録をした車を改造してしまうと、また車検証と合わない車になってしまうことはお分かりいただけるのではないでしょうか。

 

ちょっとした変更であれば大丈夫なようですが、8ナンバーを取得した後で、何か改造をしたい場合は、管轄の独立行政法人 自動車技術総合機構に問い合わせてみた方が良いでしょう。

まとめ

ざっと8ナンバーに変更するメリット、デメリットをお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか?

 

なんだか、8ナンバーにするとデメリットの方が大きいように感じられた方もいらっしゃるかもしれません。

けれど最初にお伝えしたように、やはり4ナンバー、1ナンバーでキッチンカーを営業されている方、もしくはこれからキッチンカーを営業しようとされている方は、8ナンバーに変更した方がメリットは大きいです。

 

違法ではないか?保険がおりないのではないか?車検がとおらないのではないか、そもそも車検をどこで受ければよいのか、受けられても1年に1回キッチンを降ろす作業があって営業できる日が少なくなる、などの心配事を抱えながら長くキッチンカーを営業をすることは困難です。

 

また、日本社会がコンプライアンスを重視する傾向はこれからも高まっていくことでしょう。今まで以上に、法律を守らない、もしくは守っていなさそうな会社や店舗には厳しい目が向けられることが予想されます。

キッチンカー営業を行う上で、ナンバープレートは隠すことができません。いらぬトラブルを回避するためにも、お金の面は経費と割り切って、8ナンバーへの変更登録を行っていただきたいと思います。